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股関節

股関節は脚の付け根にある、骨盤と大腿骨とをつなぐ大きな関節です。脚と胴体をつなぐ球の様な形状でいろんな方向に動き、歩いたり座ったり日々の生活をする上で非常に大切な関節です。股関節が痛くなると歩く姿勢が悪くなって脚も短くなり、歩行が不自由になり跛行(びっこ)や杖歩行となります。また腰痛や膝痛の原因にもなります。

股関節の病気と治療

変形性股関節症

関節の軟骨が摩り減ることで起こる病気で、日本では人工股関節の手術を受ける大半の患者さんがこの病気です。臼蓋形成不全(股関節の骨盤側の受け皿の部分が浅い)や先天性股関節脱臼のある方は軟骨が摩り減りやすく、早い人では30歳台から強い痛みが出て、40歳台で軟骨が完全に磨り減って手術が必要な状態になることもありますが、多くは60歳台になって手術を要します。

痛みが軽いうちは鎮痛薬や運動療法(体操、プール歩行)などの保存療法(手術をしない治療)を行いますが、痛みが日常生活の支障になると、手術療法が必要になります。軟骨の摩り減りが少ない初期の段階であれば自分の骨を利用した手術(骨切り手術)で痛みが取れることがありますが、進行した状態になると痛みやこわばりが強くなり、股関節を十分に曲げたり広げにくくなり、歩行が困難となると人工股関節置換術が必要になります。しかし、人工股関節の手術を行うことでほぼ通常通りの日常生活は可能となり、多くの方々がショッピングや趣味などでの外出や旅行を楽しんでいます。 最近は70歳をすぎてから急に軟骨が減ってきて、関節症が進行する方も増えており、そのような方は痛みが強く、早期に手術が必要になる場合が多いですが、高齢者(80歳台やそれ以上)でも安全に手術が可能ですので、高血圧など多少の合併症を持たれている方でも、一度ご相談ください。

臼蓋形成不全(骨盤の屋根が小さい)はあるも、関節軟骨は残っている状態。
関節の隙間(関節軟骨)が無くなり、骨頭も変形します。
変形が進み大腿骨の付け根や骨盤に骨のトゲ(骨棘)が出来て骨が硬くなり、骨の中に嚢胞(骨がゼリー状の組織に置き換わる)を生じた末期の関節症。
先天性股関節脱臼のレントゲン写真 本来の関節から脱臼して上方に関節を形成し、脚の短縮と関節症変化を認めます。

特発性大腿骨頭壊死症

大腿骨の付け根にある、球状の部分を大腿骨頭といいます。その骨頭の体重を支える大切な骨が壊死(骨の細胞が死んでしまうこと)を起こして潰れ、強い痛みを生じる原因不明の病気で難病に指定されています。

仕事盛りの壮年男性(アルコールの多飲と関係があると言われています)や、他の病気の治療(アレルギー疾患、膠原病、臓器移植など)のためのステロイドという薬剤の使用に関連して若い女性に発症することが多く、いまだに予防も治療も困難な病気です。壊死の範囲が小さく痛みが無ければ経過観察で良いですが、痛みが強い場合には骨頭の骨切り術をして壊死のない部分の骨で体重を支える手術をします。しかし、骨頭の破壊が進んで圧壊(地盤沈下の様に骨頭が崩れること)が進むと、人工股関節の手術が若年者でも必要になります。

骨頭内の骨が壊死し、そこが陥没すると激しい痛みを伴います。

関節リウマチ

関節リウマチとは自己免疫疾患 (免疫異常によって体の正常な組織 を傷害する病気)の一つで、全身のあらゆる関節の軟骨が傷害される原因不明で完治困難な病気です。

治療の基本は内服での投薬治療ですが、近年新しく生物製剤という高い効果が望める注射薬の開発に伴って治療成績が大幅に向上していますが、問題点は非常に高価なところです。手や指の関節炎から始まり脚の関節にも及び、早期から的確な治療を行わないと徐々に関節が変形していきます。軟骨が傷害される病気なので、一度変形すると元には戻りません。特に股関節や膝関節など脚の大きな関節に痛みが出て変形すると、歩行時の激しい痛みなどで日常生活動作が著しく制限されます。ここまで病気が進むと、ステロイドやヒアルロン酸の関節注射では効果が不十分で、先述した最新の生物製剤でも関節炎は改善されますが、変形した関節による障害には無効で人工関節の手術が必要になり、人工関節置換術は場合によっては、肩、肘や指の関節でも行う場合があります。 頑張るのは悪いことではありませんが、痛みを耐えて我慢し過ぎると股関節がほとんど動かないくらい固まったり(拘縮股)、股関節が骨盤の内側にめり込んだり、骨がどんどん痩せてきて(骨萎縮)、手術がとても難しくなる場合がありますので、手術のタイミングはとても重要です。当センターでは、高度の変形などによる困難な手術にも対応可能ですが、術後の可動域の改善には限界もありますので、あまり我慢し過ぎずに受診されて、ご相談くださる事をお薦めします。

変形は軽度ですが軟骨が消失し、骨も萎縮します。

人工股関節全置換術(THA)

人工股関節置換術は、悪くなった股関節を人工の関節に入れ替える手術です。基本的に全身麻酔で行い、股関節を脱臼後に骨盤側の骨を削って半球状の金属カップ(チタンもしくはコバルト・クロム合金製)を打ち込みます。

骨との固定は、このカップの外側表面が凸凹(ポーラス構造)に特殊加工してあり、そこに新しく出来た骨が入り込み数ヶ月かけて骨と人工関節が強固に固定されますが、必要に応じてスクリューを数本骨盤に打って初期の固定性を上げます。そのカップの内側に軟骨の代わりとなるポリエチレン、セラミックや金属などの内張り(ライナー)を取り付けます。

大腿骨側は、悪くなった骨頭を切り取り大腿骨の内腔を削って、金属の軸(ステム)を差し込みます。このステムもチタンもしくはコバルト・クロム合金製で、カップと同様に骨と固定されますが、高齢者などで骨粗鬆が進んでいる場合には、骨セメントといった接着剤で固定する場合もあります。その先に金属かセラミックの骨頭ボールを取り付けた後に、脱臼を整復させます。新しい関節面は、金属のボールにポリエチレンか金属、セラミックのボールにセラミックかポリエチレンで、それぞれ長所短所があり、患者さんの背景などで使い分ける事が一般的です。

人工股関節の耐久性は、以前は10~15年と言われていましたが、素材の開発やデザインの改良などで、現在は20年以上問題無く使えている場合が8~9割と言われ、30年の耐久性を学会でも目指しています。特に最近はポリエチレンの耐久性が上がったり、骨頭の直径が大きくなり脱臼しにくくなったり、セラミックとセラミックや金属と金属の関節面では、関節面の磨り減りは非常に軽微ですので、以前の人工股関節に比べても更に長期間ゆるみがなく、日常生活が制限無く快適に過ごせる可能性が期待出来ます。

人工股関節置換術に伴う合併症で最も避けたい合併症は、術後感染(病原菌により膿んでしまう事)です。これは体内に入れた人工物の周囲は血流が乏しいなどの理由で、いったん感染を起こしてしまうと非常に治りにくく、抗生物質の点滴だけでは治療出来ませんので、最悪の場合は人工関節を抜く必要があります。当院では感染予防策として、手術室に大規模病院にしかないバイオクリーンルームを設置しており、術者も宇宙服のような特別な手術着を着用して術者からも細菌が落ちないようにして、適切な抗生物質の使用などで出来うる限りの予防策をとっています。人工股関節の術後感染は国内・外のデータで0.5%程度と報告されています。

術後に脱臼(関節がぬけてしまうこと)や神経や血管が傷つくことがあります。これらも手術法、人工関節の素材やデザインの改良により非常に少なくなっていますが、約1~3%で起こる可能性があります。

重篤な合併症として、下肢の静脈内に血のかたまり(血栓)ができる深部静脈血栓症があります。大きな血栓が形成され血液中に流れ出し肺の血管に詰まると、いわゆるエコノミー症候群(肺梗塞症)をおこします。ただ、日本人では命にかかわる程の血栓を起こす人は非常に稀で、予防として出来るだけ早くから足首をしっかり動かしたり、きつめのストッキング(弾性ストッキング)で予防できる事が多いですが、必要に応じて抗凝固剤の注射や内服を術後に行います。

人工関節置換術は骨髄からの出血がある為、止血しながら手術を行っていてもある程度の出血を伴います。当院では基本的に自己血輸血で手術を行っていますので、手術の約4週前に外来にてご自身の血液を400ml貯めて保存しておき、術後に輸血(貯血式自己血輸血)します。また術中・術後の出血を吸引して洗浄した血液を戻す方法(回収式自己血輸血)も併用していますので、同種血輸血(いわゆる日赤の献血の輸血)はほぼ回避出来ています。

術後のリハビリは、術翌日から軽く歩行器歩行を行い、翌々日から杖歩行など積極的にリハビリを行い、ほとんどの方が術後3週間以降で杖歩行が安定となり退院できます。若い方で早期の退院を希望されている方であれば、歩行が安定すれば約2週間以内の短期入院や、高齢者などで筋力低下が著しい方でしっかりしたリハビリを希望された場合は、1ヶ月少々の入院で歩行が十分安定した状態で退院など、個々人に合わせたリハビリや入院期間を設定しています。