乳がんは、手術や放射線療法、薬物療法を組み合わせて治療してゆきます。どの治療法をどの順序で行うのかは、それぞれの方の診断結果により異なります。

ひと口に「乳がん」といっても、しこりの大きさや場所、ひろがりや数、閉経前か否かといったことで、治療の順序や方法が異なります。(そういったことから、きちんとした検査をうけて、あなたに必要な治療を受けていただくことが大切になるのです。) 乳がんの手術について考える時には、《乳房》の手術についてと、《わきのリンパ節》の手術について考える必要があります。まず、乳房の手術についてご説明します。 乳がんの手術法は、大きく分けて乳房温存術乳房切除術があります。


乳房温存術

乳房温存術は、乳腺部分切除と放射線治療がセットになった治療法です。乳房切除術後の放射線治療は、再発率が高いことが懸念される場合に行います。 乳房温存術を行うには、“しこりが一つで大きさが3cm以下である”などの条件があります。

  1. がんの大きさが3センチ以下
  2. 病巣が広がっていない
  3. 多発病巣がない
  4. 放射線照射が可能
  5. 患者さんが乳房の温存を希望(日本乳癌学会のガイドラインより)

もちろん、乳房が大きい場合には、これよりもがんが大きくても温存手術が可能ですし、反対にいくらしこりが小さくても目に見えないがん細胞が広がっていたり、しこりが乳頭に近いために乳頭がゆがんだりしている場合には、乳房切除をした方がよい場合があります。

切除範囲《乳房温存術》

がんを切除すると一口でいいますが、どの程度切除する必要があるのでしょうか。 がん細胞が手で触れる「しこり」の中だけに限られるのなら、「しこり」だけを切除すればよいのですが、そういうわけにはいかないのです。なぜなら、がん細胞は「しこり」の外まで顕微鏡でしか見えない広がりをもっている場合が、しばしばあるからです。そのため、手術では「しこり」の端から1~2cmほど離して、乳腺をくり抜く、もしくは扇状に切除します。

手術前の検査でこの広がりが明らかに広範囲にあって、温存術が適当でないと考えられる場合には、しこりが小さくても乳房切除をおすすめする場合があります。 手術の際に切除したしこりは、直接より詳細に検査を行うことができます。 これは、切除したしこりを用いて、多数の標本を作って(具体的には切除したしこりを特殊な方法で固めてからうすくスライスします)、顕微鏡をもちいてがん細胞の広がりを検討するのです。これを、病理組織の結果といい、しこりの“ほんとうの正体”をあきらかにすることを意味します。病理組織結果が出るまでに1週間~1ヶ月程度かかります。

がん細胞が手術前に考えていたよりも広い範囲にあった場合には、再手術(部分切除か乳房切除)が必要なことがあります。 再手術が必要になるかもしれないです、といわれると、「えー、温存手術を受けるの、どうしようかな」と思われるかもしれませんね。しかし、その可能性は5~10%くらいだと思います。この数字を反対側から見て考えてみると、90~95%の人は1回の手術ですむということなのです。

残念なことに、手術や治療に100%はありえません。すべての手術や治療には、「歓迎したくない可能性」があることは、抗うことの出来ない現実でしょう。ですから、《可能性》の数字のことにばかり気を取られると、あなたが希望する治療法をうけそこねてしまうかもしれません。治療や手術を選ぶのは、あなたなのです。もう一度冷静に、よく考えてみることが必要でしょう。

手術後の変形と形成手術《乳房温存術》

がんを切除すると一口でいいますが、どの程度切除する必要があるのでしょうか。 がん細胞が手で触れる「しこり」の中だけに限られるのなら、「しこり」だけを切除すればよいのですが、そういうわけにはいかないのです。なぜなら、がん細胞は「しこり」の外まで顕微鏡でしか見えない広がりをもっている場合が、しばしばあるからです。そのため、手術では「しこり」の端から1~2cmほど離して、乳腺をくり抜く、もしくは扇状に切除します。

手術時の切開創

傷が残ることはどうしても避けられません。ただし、放射線治療を行うので、創が細く目立たなくなり、みみずばれの様に太くなることはあまりありません。

乳房のへこみ

ボリュームが減りますので、場合によってはへこみが目立つことがあります。

乳房の大きさ

切除した分だけ乳房のボリュームは減るので、当然小さくなります。切除する乳腺の量と乳房の大きさによって個人差がかなりあります。がんのできる場所によっても左右され、特に乳房の下の方のがんでは、変形が強くなるかもしれません。

温存手術後の形成手術

温存手術後に形成外科手術を行い、変形をやわらげることもできなくはないですが、部分的に組織が欠損したところを補う良い方法が無いため、技術的に難しいとされています。無理をして乳房温存術を行うよりも、乳房切除術をした後で乳房再建術をした方が美容的には良好です。

術前化学療法《乳房温存術》

しこりが大きくても乳房温存手術を強く希望される方もおられることでしょう。この場合、手術前に抗がん剤(場合によってはホルモン剤)を使用して、しこりが小さくなった場合に温存手術ができ、これは標準治療の一つといえます。

乳房温存術後の放射線治療《乳房温存術》

乳房温存術を行った後には、5~6週間にわたり通院で毎日放射線療法を行うことが、標準治療となります。その理由は、放射線治療を行わないと、20~40%と高率に温存した乳房に腫瘍が再発するからです。毎日通院が必要になります、と聞かれると、「えーっ、手術が終わってやっと落ち着いた頃に、毎日病院に、ですか?」と思われた方もおられるかもしれません。 しかし、実際に治療のために通院された患者さんからは、「最初は長いなー、思ったけど、いざ治療が始まると1ヵ月ちょっとなんて案外あっという間だった」という声が聞かれます。ちょっとした気分転換をするなどしながら、この治療期間も乗りきってしまいましょう。なお、1回の治療にかかる時間は、通常10分程度です。

温存療法と放射線療法を行った後に、手術した乳房にがんが再発する可能性は、5~10%程度です。再発した場合には、再度部分的な切除ができることもあれば、乳房切除が必要な場合があります。 乳房温存術をすると、手術後の経過に悪い影響をあたえるのではないかと、心配される方がおられますが、乳房切除術と再発率や生存率はかわりません。

昔は局所のがんを取りきることが重要であるという考えから、どんなに小さながんでも全ての人に乳房切除と大胸筋・小胸筋・わきのリンパ節の切除を行っていました。ところが、多数の患者さんに協力してもらって比較試験を行った結果、筋肉は取っても取らなくても生存率が変わらないことがわかりました。 その次には、小さながんの場合には、乳房切除をしても温存手術をしても生存率が変わらないということが、わかったのです。 そういった過程を経て、現在は乳房温存術は「標準治療」となっています。


乳房切除術

乳房切除が適応となるのは、がんが大きい・しこりが小さくてもがんが乳腺内に広がっている・がんが乳房内に複数個ある(多発している)などのために乳房温存術ができない方や、ご本人が乳房温存術を希望されない方、が乳房切除術の対象になります。 乳房切除術は、乳頭・乳輪をふくめて皮ふをぼうすい状に切開して、がんを含んだ乳腺すべてを切除します。皮ふをほとんど切除しない方法もあります。大胸筋・小胸筋といった胸の筋肉は切除する必要がない場合がほとんどなのですが、乳がんの進行具合により、切除しなければならない場合があります。小胸筋だけの切除なら、美容的に問題ないですが、大胸筋を切除した場合には、肋骨が目立つようになります。

乳房温存術後に放射線治療は必須といいましたが、乳房切除の後はどうでしょうか。基本的に必要ないのですが、わきのリンパ節転移が4個以上ある人には、放射線治療をすることにより、手術創付近の再発を減らすことができ、また生存率もわずかですが改善するというデータがあります。そのため、わきのリンパ節転移が4個以上ある人には、放射線治療を基本的に行います。